日時:11月2日(土)
16:15〜17:15
橋彌 和秀 先生
(九州⼤学⼤学院⼈間環境学研究院教授)
講演要旨
ヒトの視線は, 他者の⾏動や意図に基づいて学習を⾏う際, また, ⾔語学習および協⼒の
⽂脈で特定の対象を指⽰する際の, 重要な⾮⾔語⼿がかりとして機能する。この, ヒトをヒ
トたらしめる⾏動特性としての視線コミュニケーションの⼼的基盤が20世紀後半以降議論
されるとともに, 形態的基盤として, ヒトの⽬のユニークな特徴が指摘され議論されてき
た。すなわち, 他の霊⻑類と⽐較して「⽔平の扁平度が⼤きい(横⻑)」, 「強膜の露出が⼤
きい」そして霊⻑類中唯⼀「(種に⼀般的な特徴として)⽩⽬=強膜着⾊の⽋落が⾒られる」
ことが, 同種間のコミュニケーションにおける視線信号を強化するシグナルとして進化し
た適応的形態である可能性が提⽰され(Kobayashi & Kohshima, 1997; 2001, Kobayashi &
Hashiya, 2011), 進化⽣物学, ⼼理学, 認知ロボティックス, 神経科学を含む広範な分野に
インパクトをもたらしてきた。
近年, この仮説には異論も唱えられ論争もおこなわれてきたが, 現時点の形態学的およ
び実験的知⾒は, 当初の主張をおおむね⽀持している(Kano, 2022)。しかし⼀⽅で, オリジ
ナルの仮説が提唱されてから四半世紀が経過し, その間の理論的・技術的進展を踏まえた建
設的なアップデートが必要とされている。これらの動向や今後の研究展望について紹介し
た上で, 視線というシグナルが, 内的な情報処理システムとしての「こころ」に接続される
メカニズムについて議論させていただきたい。