特別講演-1
生成AI時代のバーチャルヒューマン研究の現状と今後



早稲田大学先進理工学部教授 森島 繁生

人物CG合成のフォトリアリティに関しておよそ38年間研究を継続してきた.2005年の愛・地球博において,観客全員の顔が自動的にモデル化され映画の登場人物として出演させる世界初の“Future Cast Theater“は,企業パビリオンの目玉として注目され,164万人の観客がこれを楽しんだ.その後12年に渡り長崎のハウステンボスで常設展示としてロングラン上映された.いわばAI時代前夜の技術の集大成と言える.しかし,AIの急速な発展の時代を迎え,最近5年ほどで,それ以前の30年を遥かに凌駕するクオリティの成果が加速度的に発表されるようになり,研究のスタイルも激変した.このような背景において,1枚の写真の人物の顔から3次元顔モデルを自動生成する技術や,一枚の画像から衣服を着たユーザそっくりのデジタルアバターを瞬時に自動生成する要素技術を開発した.本講演では,特に人物そっくりのCGキャラクタ合成に焦点を当て,これまでの研究経緯を振り返りつつ,最近の急速な研究発展の様子を実際に動画を交えながら紹介する.



特別講演-2
私の顔を生きる―ガングロギャルから顔出しNGアーティストまで



甲南女子大学人間科学部教授 米澤 泉

 ガングロ、目力、茶髪、プチ整形―女子高生からアスリート男子に至るまでが化粧や身体改造に夢中になった1995年、日本顔学会は設立された。顔への関心の高まりが顔学会の誕生につながったのだ。それから30年。「顔」はすっかり脱ぎ着できるものとなった。コスメやテクノロジーは際限なく進化し、インターネットでつながれた社会にSNSが普及するなかで、もはやリアルな化粧や身体改造だけでなく、ヴァーチャルな世界で顔や身体をいかに表現するかが、重要な課題となった。アバターが登場し、仮想が現実を凌駕するかのような世の中で、現実の顔はどんどん奥行きをなくしていく。マスク顔も市民権を得るようになり、顔を見せない「顔出しNG」アーティストが紅白歌合戦に出場する時代において、顔はその存在感を失いつつあるのだろうか。その背景には何があるのだろうか。
 私たちは顔が特権的に強い意味を持っていた時代の終わりに立ち会っているのだろうか。