特別講演2

新学術領域『顔身体学』特別企画
『象徴としての顔身体を考える』

顔や身体はその所有者と他者・環境を繋げる生々しい存在です。しかし個々の生身の所有者とは切り離された、象徴としての顔身体の存在もまた見逃せないものです。新学術領域『顔身体学』では哲学、人類学、考古学、心理学など多彩な専門分野の研究者たちが多く集い、顔身体に関するバラエティに富んだ研究を進めています。本セッションでは『顔身体学』に参加するメンバーにより象徴としての顔身体に関連する心理学、考古学、人類学の研究を紹介し、その意義や機能、その多様性について議論します。

 

『イントロダクション:象徴としての顔身体』(山口真美)

山口真美(やまぐちまさみ) 中央大学文学部心理学研究室教授。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科人間発達学専攻修了。博士(人文科学)。近著に『自分の顔が好きですか? 「顔」の心理学』(岩波ジュニア新書)など。


『図式化される顔身体とその多様性』(高橋康介)

概要
顔は実体でもあり同時に象徴でもある。象徴としての顔は、似顔絵や顔文字として可視化、図式化され、地域、時代を問わず情報伝達の手段として利用されてきた。我々研究グループではこのような顔の図式化に着目し、ヨーロッパ、アジア、アフリカなど世界各地で顔の図式化に関する調査・実験を実施してきた。本講演では顔の図式化に関する地域間比較研究について紹介し、そこで見えてきた顔の図式化や認識と表現の多様性について議論する。

高橋康介(たかはしこうすけ) 立命館大学総合心理学部教授。京都大学大学院情報学研究科修了。博士(情報学)。主要な論文に「Is 😀 Smiling? Cross-Cultural Study on Recognition of Emoticon's Emotion」「Gaze cueing by pareidolia faces」など。


『縄文土器の顔身体と象徴操作』(中村耕作)

概要
縄文土器の形態・文様には縄文各集団のアイデンティがつまっているが、しばしば顔や身体表現をもったものがあり、注ぎ口や下部にあけた孔で男女を象徴させる事例もある。中期では顔面部分はしばしば意図的に破壊されたり、最初から破壊された状態でつくられる。後期では、様々に形態を変異させて差別化を図る中で最後に顔身体化現象がみられる。今回はこれら縄文人による顔身体への多様な造形・行為をもとに、豊かな象徴世界を紹介する。

中村耕作(なかむらこうさく) 國學院大學栃木短期大学日本文化学科准教授。國學院大學大学院博士課程修了。博士(歴史学)。主な著書に『縄文土器の儀礼利用と象徴操作』(アム・プロモーション、2013年)、『遺跡・遺物の語りを探る』(共著、玉川学園出版部、2014年)、『縄文土器を読む』(共著、アム・プロモーション、2012年)など。


『死者と(顔)身体』(西井凉子)

概要
南タイの村では、人が死に近いとわかると「いつ死ぬのかをみにく」とその人の家を訪問する。巨大な消化管として人間を捉え、死にむかう過程における身体の変化に焦点化すると、それと並行するように、家もまた死をめぐって細胞膜のように開閉する様子をみてとることができる。そこから、人間のあり方が、個体としての身体的存在として生きるのみでなく、集合的存在としてあり、さらにはその環境も含んだ自然の一部であることを示す。

西井凉子(にしい りょうこ) 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。主な著書に、『情動のエスノグラフィ-南タイの村で感じる*つながる*生きる』(京都大学学術出版会、2013年)、『アフェクトゥス―生の外側に触れる』(京都大学学術出版会、共編著、2020年)など。

 


企画:科研費新学術領域研究「トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現-」